福岡県北九州市折尾駅から徒歩3分にある母の家である。
ここは元々父方の祖父母の家だった場所で、私も土地に馴染み深い。いろいろな思い出話は割愛するとして、その思い出の風景は、敷地が南北に長く北側に前面道路があること、敷地西・南側隣地も持ち物で当時は会社を営んでいたということに起因する要素や色でできていることに設計しながら気がついた。そうして出来たプランは、南北に長く一番環境の悪そうな北側に家族の集まる居間があるにもかかわらず、結局同じ感覚をもつ家族の合意に至った。
この建築を最も特徴づけるのは、庇際のトップライト+独立屋根により、本来ならば薄暗い北側の居間に、1日を通してその時その時の新鮮な太陽が届くことである。低い西からの太陽は大きく張り出した庇で和らげている。また、庇と同じように軒を張り出し、周辺からの感覚的距離をつくった。
計画当初、折尾駅周辺は市の整備事業が決まっており、これから周辺が大きく変わろうとしているところだった。敷地周辺だけをみても、区画整理や街路事業により変わることは明らかで、さらには所有している敷地西・南側の土地もいつまでも施主のものとは限らない。
竣工から約5年たった今、周辺は道路工事が進められ、西側の土地は駐車場にして貸し、車が多く出入りしている。母はその境目に路地をつくり、張り出した軒の下で茶花を育て、雪見障子からみえる紅葉を愛でている。
環境も変わり、人も変わる中で、母の終の棲家として、この場所が雑踏から切り離された市中の山居になればと願っている。
所在地:福岡県北九州市
工事種別:新築
用途:住宅
延床面積:124.61㎡
施工:株式会社 緒方組
竣工年:2019年8月
写真:岡部将人