梅岡設計事務所

2019

おにぎり屋

2つの大きな家具を挿入する

計画した店舗は高円寺の駅にほど近い純情商店街に立地している。店舗は、これまで山形県のアンテナショップとして物産販売や喫茶スペースとして運営されてきたが、「おにぎり屋」としての業態を際立たせるようなリニューアルをすることで、新たな顧客開拓が目指された。また、予算の面では、通常家具をつくるので精一杯というかなり厳しい条件での設計が求められた。大きな空間の変更は予算的に難しいという条件を逆手に取り、あえて既存の空間はほとんど変えずに、家具を挿入することで、新たなおにぎり屋としての空間をつくれないかと考えた。
計画にあたっては、「カウンターテーブル」と「壁面棚」という2つの大きな家具を挿入することで、来店客と従業員の空間を仕切り、商店街の通りに対してアクセントを与えるデザインとした。「カウンターテーブル」は、おにぎりを飾るショーケースとして機能しつつ、軽飲食をするためのハイカウンターテーブルとしても使うこともできる。「壁面棚」は、物産品を陳列する棚であり、商品を買いに来た人が少し座って憩えるベンチにもなる。また棚は、あえて奥行きの短いものとすることで、物産店にありがちな在庫が数多く並ぶような陳列の仕方ではなく、商品の魅力が1品1品際立つようなつくりとした。
そして、奥行きの長い店内に対して、斜めにカウンターを配置することで、通りからの視線を引込み、単調になりがちな細長い空間に変化をつけることとした。さらに、従業員側の壁面を黒で塗装することで、来店客と従業員の空間の違いを際立たせ、来店客側の空間をより明るく入りやすい空間とした。
このプロジェクトはデザインのローコスト化だけでは実現しなかっただろう。プロジェクトを実現するにあたっては長年高円寺で商売をされてきた施主の人脈により、地元で家具製作・内装施工をされている職人を紹介してもらうことで初めて実現した。製作にあたっては、職人との相談の中で、普通ならラーチランバーになるカウンターの天板を、在庫の余っているパイン材を手配してもらえることになり、作り方を変更しながら実現した。
小さなプロジェクトではあるが、最小限の操作と最大限の繋がりによって、DIYとも通常の店舗設計とも違う地域に根差した空間のつくり方を実現できたのではないかと考えている。

所在地:東京都杉並区
工事種別:改修
用途:店舗
改修床面積:15㎡
施工:小川学
竣工年:2019年3月
共同設計:山田美紀一級建築士事務所